・概要
シナリオライター買いしました。注目の田中ロミオ氏の作品です。前作が少々微妙(神樹の
館)だったので、今回は!とういうような感じです。また、XUSEはこれまでにも良い作品を多く 出しているメーカーさんです。
内容としては、上を読めばわかるように普通の高校生の恋愛もの…かとおもいきや、全然違
いますね、これ。まあ、やればわかります。『CROSS CHANNEL』にハマった方はやって損は無 いでしょう。
・絵、背景
原画はあらきまきさん。XUSEで何作か過去に担当されています。普通の絵、という説明が妥
当でしょうか。でも上手です。CGの塗り方が全体的にぼかすような感じがかかっていて、作品 全体の雰囲気を優しいものにしています。この塗り方は私は好きですね。でも、人によっては そういった雰囲気や原画に会わない方もいる、と感じる絵でした。
背景は、まあ普通といったところです。
・システム
SAVE、LOAD時にダブルクリックが必要な点を除いてはとてもスムーズに動き、大変良い出来
です。演出等も良いです(特に最初の年齢確認&注意事項がすばらしい!)。シーンタイトルが ついており、Optionでのおまけモードで、チャプターとして読み返せる点が特にすばらしいと思 います。逆にこの作品は必須だとも感じますが…。
物語はよくあるような選択肢で進めていくものではなく、基本的には一本道で何回も話を繰り返
す、しかし途中途中に登場する文章の中の「リンク」を選択することによって、僅かに話の流れ が変化していき、最終的にひとつの結末にたどり着く、というような仕様です。この「リンク」、結 構曲者でSkipで自動的に止まってくれるのはいいのですが、ついページを進めてしまい、飛ば してしまうことが多々ありました。多少シナリオ的には変にはなっても、直前でいいから選択を 戻れる機能が欲しいと感じました。
・サウンド、音楽
LittleWingのたくまるさん。綺麗なBGMでは随一(だと思ってます)で、今作でもその腕を遺憾な
く発揮されています。ですが、流石にこれだけメジャーになると、作風がマンネリ化してきた感じ も…。OPのVocalは片霧烈火さん、EDVocalはさくらさん。ともに上手ですし、ともにゲームの主 題歌としては珍しい曲調の歌をきちんと歌い上げています。あとOPの曲がMovieとの関係上、 とても前奏が長いです。
BGMについて感じた点についてひとつ。このゲーム、Voicelessなのですが、シナリオとも相ま
って(私的には)とても静寂の似合う作品だと感じられました。にぎやかな曲はなく、全ての曲が ほぼ静寂そのものなのですが、一部のシーンで曲を流す必要はない、と感じる時がありまし た。そこが残念な点です。
・シナリオ
ライターは田中ロミオさん。完全にシナリオメインの作品です。作品自体から氏のニオイがぷん
ぷんしますから。比べるのは良くないと解っているのですが、上記のように、氏の以前の作品 である『CROSS†CHANNEL』と似たような雰囲気が全体的にありました。しかしその作品よりは テーマの重みや、話の悲壮感が強いです。
また、公式HPに行くだけでは話の内容は全くわからないのも、またこの作品の良いところで
す。事前に私が想像していた物と、中身はほとんど違いましたから…。
(以下微妙にネタばれ注意!)
この作品は何回も話を繰り返しながら進めていくのですが、その順は
1〜5週目:各ヒロインとの日常的なシナリオ
6〜10週目:少し変化をつけた(主人公の心情がより濃くなった)シナリオ
11週目:戦争編
です。良くあるように、最初は日常を描いて次に修羅場、そしてHappyEDといった王道的な展
開です。しかしながら、細かい情景描写は氏の右に出る人はいないと思います!日常会話 の、なんてテンポがよく、なんて華があって面白いことか!また伏線の貼り方がまた上手い! 最後まで行って気がつくものが結構ありました(さらにクリア後読み返して、『敵』の正体を理解 したり)。
また、もしこの作品に音声があれば、かなり進めるのがたるんでいたと思います。それくらいテ
キストが多いのですが、それをあまり感じさせない文章でした。
が、大きな問題があります。シナリオゲーに代表される語彙の難しさ。これが顕著に現れてい
ます。それがただの文学表現にとどまるレベルならば、ただ私が馬鹿だということに納まるの ですが、怒涛の専門用語の嵐…哲学が出てきて、社会行動学、そして生物学に物理にコンピ ューター…調べるのには普通の辞典ではなく、専門的、あるいは百科事典が必要です。本当 に難解でした…。一周しただけでは、この作品のテーマや、そもそも内容を理解するのが難し いと私は思います。事実、私は終了後にチャプターを読み返して、理解度9割5分くらい、といっ た感じでした。
―以下完全ネタバレ―
登場キャラクターの一人である『イマ』、その正体が語られるのがEDロール後というのには驚
きました。流石にシナリオを握る(完全に左右する)キーパーソンなのですが、ちょっとおまけ感 が残ります。もう少し上手な扱いが欲しかったですね。
あと、ある意味この作品、実は全部夢でした的なものなので、それも(作品の弱点として)見
過ごせない点だと思います。
・総評
とっても綺麗な作品です。が、難解です。テーマの受け取り方が各人で異なるであろう作品です
が、世界に対しての認識を考えさせられる作品でした。しかし難解さ故に、読み手を選ぶ脆さも 併せ持った作品だと思います。私的には2004年の春以降で最も上手なシナリオ、そしておそら くシナリオについて評価すれば、今年度で最も良い作品だと思います。つまり、私にはドンピシ ャで嵌まりましたw
評価
絵:6 音:8 環境:8 文章:10 総合:8
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